setsuna ― no.1



自らの鼓動が焦っているのがわかる。
唯一は、こんなとき息が切れないのがありがたい。
片手には反りのない刀が辛うじて鞘に治められている。
少女は罪の意味を思考しながら、既に幾度も通った森を駆ける。
――もう遅いかもしれない。
最悪の映像を、横切らせる。振り払わない。
少女の心は強靭な皮で覆われていて、一人の姫君に関して以外震えることはなかった。
それが今はどうだ。この足は、何の為に走っているのか、少女は認めたくない。だが今おこなっていること、それこそが認めているという事実に他ならなかった。
晴天の真昼にもかかわらず、一粒の光さえ地面の雑草を照らす事がなくても、少女は迷わず辿る。
少年の跡を追う。
そこに散らばる肉塊を見ていても特別な感慨など湧かなかった。
仲間の残骸を避けながら、少女は足を止めた。
雷撃と烈風で巻き上げる少年の姿が、網膜を刺した。
本来の緋色の瞳を偽るためのレンズを通して、倒れゆく少年が映る。腹部には、返り討ち必死で打ち込んだであろう醜悪な形状の剣。
ああ、と少女は漏らす。僅かな時間で急激に成長している。
(我々にとっては危険、なのだろうな)
冷徹な輝きを放つ刃が抜かれた。
眼球だけを動かし少年を一瞥する。瞬間、その少女と少年以外、その場に生命のあるものは消えた。
(だけど、私は――)

少女は少年を抱える。杖も一緒にもつ。
神鳴流剣士にとって、十歳の少年プラス杖などさしたる重量ではない。
造形の綺麗な顔に泥が擦れていて、少女はそれがやけに不似合いなものに思えた。だが両手は塞がっている。
少年と顔をあわせるのはあの日以来だった。たった数ヶ月。
――なのに大人びたように見えるのは、不思議ですね。
瞼に力を込めたまま、少女は自分の巣なる家へと、体内のざわめきを解放した。
白い翼を隠そうともしないで。真っ直ぐと。
少年を腕に、ただ、大切そうに抱えていた。
その、少女の名前は――。




×× NEXT ××

* 中書き *
NUMBER .003終盤のほうの刹那視点。
これからたまにこんな文章の挟みますので。読みにくかったら申し訳、です。
うむむ、力不足だ・・・・。がんばろ。
2007.3.24